新たな恋人

中学1年生の冬。

アンサンブルコンテストの大会が始まり、私たちサックスカルテットは最終的にエリア大会まで出場でき、結果は金賞だったものの、いわゆるダメ金というやつで、全国大会までは届かなかった。

 

この頃、母に新しい恋人が出来た。

アンサンブルコンテストの練習もあったし、あまり母と話すこともなかったが、あるとき母に「もう中学生になったし、門限は21時でいいからね」と言われた。

中学1年生の門限が21時というのに衝撃だったが、部活で遅くなる日も多かったし(とはいえ21時まで練習することはないが)、門限が遅ければ遅いほどいいやという気持ちだったので受け入れた。

 

けど、遅い時間の門限設定の理由は、母に恋人が出来たからだというのに私はすぐ気づいた。

 

というのも、部活から帰ってきてご飯を食べるにも、母が全然帰ってこないので、自分で食材を買ってご飯を作るというのが日課になったからだ。

 

母に連絡しても「遅くなる」しか言われず、ああ、また男か。とすぐに分かった。

 

日付が変わって帰ってくることはなかったものの、基本的に夜ご飯は自分で用意して一人で食べる生活だった。

 

小学生の頃の私なら、母と一緒にいたいとずっと思っていたが、この頃はもう中学生。すでに母親のことを「母」だと思わなくなった私にとって、母がいない生活の方が楽に感じた。

幸い、私には部活という、打ち込めるものもあったし、サックスを吹いている時間だけが唯一の幸せだった。

 

 

 

そんなある日、部活から帰ると、母と一緒に見知らぬ男が家にいた。

男は母より少し年上のような雰囲気で、見た目はガラが悪かったが、かなり陽気でお喋りな男だった。

 

男は私を見るなりすぐに話しかけてきた。

私と仲良くなろうとしている感じだった。

「お母さんとお付き合いしてるんだ」という話だったのは覚えているが、あとはなんの話をしたかは覚えていない。

 

とにかくずっと話しかけてきていて、「りなちゃんはどんな遊びが好きなの?」と聞かれたので、たまに友達とやっていた「ボーリング」と答えた。

 

すると男は「じゃあ今からボーリングに行こう!」と言い出した。時間はもうだいぶ遅かったが、本気で行く気のようで、「もう疲れたからいいよ」と言っても無理矢理に連れて行かれた。母はニコニコとしているだけで、何も言わずについてきた。

 

その日は結局ボーリングをやらされ、楽しかったというよりかなり疲れた。

 

そしてこの日から男はしょっちゅう家に来るようになった。